新品のビルより、調整(チューニング)されたビンテージ。エネマネは「建物の鳴り」を育てる技術。
【人生の省エネ論】サスティーンを響かせるために、私は「雑音」をミュートする。
今日、朝から晩までパソコンにかじりついて防火管理者のオンライン講習を受けた。 正直、法規の解説は眠くなる。けど建築設備と音楽、二つの世界を知る私の脳内で変換すると話は別。
防火管理とは、つまり「バンド運営」であり「ライブ制作」そのものだ。
「避難訓練なんて面倒くさい」 そう思う人は、こう考えてみてほしい。
プロのミュージシャンですら、本番前には必ずリハーサルをする。 セットリスト(進行)を確認し、モニターの音量(環境)を調整する。なぜか? 「ぶっつけ本番」で最高のパフォーマンスなんて、絶対にできないからだ。
それなのに、なぜ火災という命のかかった緊急ライブの時だけ、全員がアドリブで動けると思うのか? 図面も読めない、消火器の使い方も知らない素人が、パニックの中で即興演奏(避難)なんてできるわけがない。避難訓練は、学校行事のような儀式じゃない。 あれは「死なないためのスタジオ・リハーサル」なのよ。
講習の中で避難管理という話が出た。 廊下や防火扉の前に段ボールや備品を積み上げている現場をよく見る。
音楽で言えば、あれは「ギターシールドの上に重いアンプを置いている」のと同じ。 信号(音)の流れが止まれば、ライブは中断する。 避難経路における「信号」とは、逃げる人の「命」だ。
美しい配線(動線)を確保するのは裏方の美学であり、プロの最低条件。 「ちょっとくらい置いてもいいだろう」という甘えが、いざという時に「音が出ない(逃げられない)」という最悪のトラブルを引き起こす。
大規模な建物になればなるほど、役割分担は複雑になる。 そこで必要なのが防火管理者だ。
これは、オーケストラにおける「指揮者(マエストロ)」だ。 非常ベルというカウントで演奏が始まった瞬間、全員がバラバラにソロを弾き始めたら、現場はカオスになる。
誰が初期消火(リズム)を担当し、誰が避難誘導(メロディ)を奏でるのか。 「消防計画」という名の譜面(スコア)がないと、この巨大なアンサンブルは成立しない。
建物は、造っただけでは完成しない。 使い手が「リハーサル(訓練)」を繰り返し、「メンテナンス(点検)」を続けて初めて「生きた楽器」になる。
次に消防訓練のアナウンスが流れたら、面倒だと思わずに参加してほしい。 それは義務ではなく、あなたの命を守るための「サウンドチェック」なのだから。