建築設備エネルギーラボ合同会社

アコギからアームの音が聴こえた日。図面の『線一本』に宿る『幻聴』の話。

私のギターの先生が、ある日エレキギターの曲をアコースティックギターで弾いた時のこと。

当然、アコギには音を揺らすための「アーム」なんて付いていない。 でも、先生はエレキを弾く時と同じように、フレーズの語尾で右手をクイクイッと動かした。

それを見ていた生徒さんがポツリと言った。『なんか今、音が揺れて聴こえた』

これ、すごい話だと思いませんか? 先生の頭の中で鳴っている強烈な「音のイメージ(概念)」が、手の動きに乗り移り、物理的にはあり得ない音を聴衆の脳内に再生させたんです。 俗にいう「顔で弾く」じゃないけれど、「魂(ソウル)が物理を超えた瞬間」ですよね。

■ 私の図面にも「幻聴」が鳴っている

実はこれ、私が普段やっている設備設計の世界も全く同じだと気付いてしまった。

私の描く図面を見た人は、こう思うかもしれない。「ただの黒い線だろ」と。

でも、私がCADで引いたその「たった一本の線」には、アコギのアーム音と同じように、目には見えない膨大な「意図」が乗っている。

■ その線の裏にある「5つのレイヤー」

私が線を一本引く時、脳内ではこれだけのシミュレーション(レイヤー処理)が行われている。

 物理(干渉): 梁を避けているか? 照明とぶつからないか?

 機能(流体): 水や空気はスムーズに流れるか? 勾配は?

 施工(現場): 職人さんの工具が入るスペースはあるか?

 未来(メンテ): 10年後、ここを交換できるか?

 美学(プライド): 並びが美しいか? カッコ悪い納まりじゃないか?

この全てのツマミを調整して、全ての条件がクリアになる「たった一つのルート」を見つけた時、初めてそこに線が引かれる。

だから、現場で軽く「ここ、ちょっとズラしていい?」と言われると、私は心の中で思う。 「いいけど、それをズラすと、美学とメンテのレイヤーが崩れて、音楽が変わっちゃうよ?」と。

■ 右利きだけど、マウスは左手。

写真は私の作業風景。 実は私、右利きなんですがマウスは「左手」で操作します。

なぜか? 右手は常にキーボードの上に置いて、テンキーを叩きたいから。 「思考の速度」に「入力の速度」を追いつかせるための、私なりの効率化(という名の執着)。

ドラマーが両手足で違うリズムを刻むように、左右の手で違うタスクを処理しながら、図面に「音」を刻み込んでいるんです。

■ 結論

私の引く線は、迷い線じゃない。 数多の制約をクリアした、強靭な「意思」の結晶だ。

現場の皆さん、私の図面(デモテープ)を見る時は、どうか耳を澄ませてください。 その線の奥から、私のこだわりのノイズが聴こえてくるはずですから。

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