新品のビルより、調整(チューニング)されたビンテージ。エネマネは「建物の鳴り」を育てる技術。
電気の「漏電」と「ショート」の違いが分からない? なら「硫酸の配管」で想像してみてください。
朝、誰もいないミーティングルームでAlter Bridgeを聴いてた。普段は分析するように聴く音も、スピーカーに背中を預けて浴びるように聴くとまた違う景色が見えてくるから不思議。
歪んだギターの轟音。かつてはその「激しさ」ばかりに耳が行っていた。でも自分で事業を回し、限られたリソース(時間や気力)を管理するようになって改めて気づくのは、ロックギタリストたちの「ミュート(消音)」の技術の凄まじさだ。
彼らは、ただ掻き鳴らしているわけではない。鳴らすべき音を強烈に響かせる(サスティーン)その裏で、不要な弦の振動を右手の手刀や左手の指先で徹底的に押さえ込んでいる。
これをやらないとどうなるか? 全ての弦が勝手に共鳴し合い、音が濁り、何がメロディなのか分からない「ただの騒音」になってしまう。
これ、人生のエネマネ(エネルギーマネジメント)と全く同じだな、と。
建築設備の世界でも、一時に使えるエネルギーの上限は決まっている。 空調も、照明も、動力も、すべてのスイッチをMAXにしていたら、あっという間に契約容量を超えてしまう。 だから、優先順位の低い回路は制御(ミュート)しなければいけない。
人間関係や日々のトラブルもそう。 投げかけられた言葉、他人の不機嫌、過去の後悔、やらなきゃいけないという強迫観念。 それら全てに反応して弦を震わせていたら、ハウリングを起こして本当に鳴らしたい「自分の人生の音」がかき消されてしまう。
正直に言えば、私はこの「ミュート」が下手だった。聴こえてくる全ての音を拾い、全ての弦を震わせ、勝手に疲弊していた時期もあった。
でも、ようやく分かってきた。美しいサスティーン(余韻)を楽しむためには、冷徹なミュートが必要だということが。
自分にとってノイズでしかない人の感情や、解決不能な問題には、そっと、でも力強く掌を当てて振動を止める。「冷たい」と言われるかもしれないけれど、それは私の音楽(人生)を濁らせないための必須のテクニック。
雑音をミュートした瞬間の静寂があるからこそ、その後に続くソロパートが泣けるほど美しく響く。
不要なノイズはブリッジミュートで刻みつつ、やるべき仕事と、自分のための時間を響かせていこうと思う。