建築設備エネルギーラボ合同会社

音の「天井高」の話。設備屋が理解した、電圧105Vとディストーションの物理学。

先日、ギター教室の先生(音響のプロ)がご自身のスタジオについて、「電気がいいんだ、105Vは来てるから!」と仰った。

一般家庭のコンセントは100Vだ(実際は電圧降下でもっと低いことも多い)が、先生のスタジオは条件がすごくいいらしい。「電気がいいと音がいい」と先生は言うが、正直、その時はピンときていなかった。 電圧という「水圧」が高いとパワーが出るのは分かるけど、なんで「クリア」になる?

「ヘッドルームに余裕がある」

そう表現するらしい。ヘッドルーム! これ、建築で言うところのCH(Ceiling Height=天井高)と思えばいい!

音の「天井」が低いとどうなるのか?
音というのは電気信号の「波」だ。静かな音は低い波、激しい音は高い波。これを人間に例えるなら、部屋の中でジャンプしているようなもの。

電圧が高い(105V)状態 = 天井が高い(CH 3,000mmくらいの大空間)。 思いっきり高くジャンプしても(=激しい音を出しても)、頭をぶつけることはない。波形はきれいなまま、伸びやかに表現される。これが先生の言う「クリアな音」の正体。

電圧が低い状態 = 天井が低い(CH 2,100mmくらいの圧迫感ある部屋)。 ここで元気にジャンプするとどうなるか? 当然、天井に頭が「ゴン!」とぶつかる。

音響の世界では、波形が天井(電源電圧の限界)にぶつかり、波の頂上がスパッと切り取られて「平ら」になってしまうことをクリッピングと言う。

そして、この「頭をぶつけて平らになった波形」の音こそが、ロックギターの歪んだ音、ディストーション(Distortion)の正体だ。

わざと「天井」を低くする機械

スタジオ録音では「事故」であるクリッピングも、ロックの世界ではかっこいい「表現」になる。でも、わざわざ電圧を下げて回るわけにはいかない。

そこで登場するのが、ギタリストの足元にあるエフェクター。これが何をしているかというと、電気回路の中で意図的に天井(CH)をめちゃくちゃ低く設定している

写真は私のEffects Bakeryのディストーションペダル。見た目はパン屋さんみたいで可愛いが、やっていることは凶悪で、入力されたギターの信号(波形)を、この小さな箱の中に閉じ込め、強制的に低い天井に衝突させて(実際には倍音で埋めて)、波形の頭を平らに潰している。

そう考えると、あの激しいロックサウンドも、感情論ではなく「物理的な空間(電圧の幅)の制約によって生まれた波形の変形である」と定義できる。

うーん、面白い。電圧と天井高とロックンロールが私の中で一本の線で繋がった瞬間。 やっぱり構造がわかると世界は面白い。

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