建築設備エネルギーラボ合同会社

設計図は『指示書』じゃない。現場というステージのための『デモテープ』だ。

設備設計図を描くとき、私はヘッドフォンをしていないだけで、頭の中ではいつも爆音のロックが鳴っている。

世間一般にとって設計図はただの「工事用図面」かもしれない。 冷たい直線の集まりで、配管のルートやダクトサイズが書かれた、無機質な指示書。でも、私にとっては違う。

設計図は、私の「デモテープ」だ。

■ 線一本に「グルーヴ」はあるか?

ミュージシャンが曲を作るとき、バンドメンバーに「こういう曲にしたいんだ」と渡すデモテープ。 そこには、まだ洗練されていなくても、「ここで盛り上げたい!」「ここは静かに聴かせたい!」 という、制作者の「熱量(Soul)」と「意図(Concept)」が詰まっている。

設備設計も同じだ。 空調の風がどう流れるか。水がどう配管を巡るか。そこには確実に「リズム」があり「流れ」がある。

何も考えずに引いた線は、リズムのないドラムと同じ。 施工者が見た時に「これ、どう弾けば(施工すれば)いいの?」と迷わせてしまう。 そんな図面は、音楽として破綻している。

■ 現場は「セッション」の場

私の描いた図面(デモテープ)を受け取るのは、現場代理人や職人さんという名の「バンドメンバー」たちだ。 彼らは、渡された図面を元に、実際の建物という「ライブ」を作り上げていく。

もし、私のデモテープ(図面)の解像度が低かったらどうなるか?「ここ、納まりどうなってんの?」 「この配管、梁とぶつかるだろ!」 不協和音(トラブル)が起き、セッションは止まってしまう。

逆に、私の意図が明確で熱量のこもった図面なら。 施工者は「なるほど、こういう意図ね。なら俺はこう納めてやるよ」と、プロの技で応えてくれる。 最高の図面は、現場のアドリブ(技術)さえも引き出すことができる。

■ 「概念」を「実体」にする仕事

私は思う。私がやっているのは、単にCADで線を引く作業じゃない。頭の中にある「快適な空間」という目に見えない概念(イメージ)を、 現場に伝えるために視覚化(言語化)する翻訳作業なんだと。

だから私は、線一本にもこだわりたい。 それは「神経質なこだわり(執着)」なんかじゃない。 最高の音を鳴らすためのマスタリング作業だ。

私の描く図面には、私の「音」が入っている。 現場の皆さん、どうか私のデモテープを、最高のアンプで鳴らしてほしい。 いいセッションをしましょう。

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