【私が建物の”調律師”になるまで②】幽霊テナントと、思考停止の夜。私はただの「操り人形」だった。
【私が建物の”調律師”になるまで①】設計図の「その後」を知りたくて飛び込んだ場所は、めまいがするほどの「歪んだ空間」だった。
私の体はたまに「サージング現象」を起こしかける。空調機でいうところの、ファンが異常振動して、最悪の場合ぶっ壊れるあれ。
原因は「発声」。仕事柄、人と話す機会が増えると、どうも喉がすぐに枯れる。気合を入れた打ち合わせの後に声が出なくなった時、ふと、ギター教室の先生の言葉が浮かんだ。
「ピッキングは力じゃない、速度だ」
そして、私の脳内がバチバチっと繋がった。ああ、そうか。私は今まで、とんでもなく非効率な運転をしていたんだ。
結論から言うと、私は歌う時も喋る時も、無意識に喉のダンパー(VD:風量調整ダンパー)をギリギリまで絞っていた。設備屋の皆さまならこのヤバさがおわかりと思うが、送風機(ファン=お腹の横隔膜)の回転数は上げているのに、吐出口(喉)を90%閉じていた状態。
これでは、ダクト内(気道)の静圧だけが異常に高まり、肝心の風量(声量)はチョロチョロとしか出ない。結果、ダンパーである声帯や喉の筋肉に過剰な負荷がかかり、すぐに「故障(声枯れ)」していたわけだ。
なぜそんなことをしていたのか。それは、私が「音のエネルギーの出し方」を勘違いしていたから。
流体の基本公式 Q(風量)= A(開口面積)× V(風速)
すなわち V(風速)= Q(風量)÷ A(開口面積)
私は、V(声・音程)を出す時、A(喉の開き)を絞ってコントロールしていた。ホースの先を指で潰して水を飛ばすようなやり方。
でも、プロのミュージシャン(例えば、私が敬愛する田島貴男やマイルズ・ケネディ)は違う。彼らは、A(喉)は全開(Full Open)。その上で、Q(腹から送り出す風量)でV(風速)を爆発的に上げ、とてつもないエネルギーを生み出している。
これはギターも同じ。物理の公式 E = 1/2 mv^2 が示す通り、運動エネルギー(良い音)を決めるのは、腕力(m)ではなく、ピッキングの速度(v)の二乗。
技術的な理屈はわかった。では、なぜ私の体はこんな非効率な癖をつけてしまったのかと言えば、介護、家族、社会のしがらみ……。
「言いたいことを飲み込む」「自分を殺して耐える」そんな防衛本能が、無意識のうちに「喉のダンパーを常に閉じておく」という設定をデフォルトにしてしまったのだろう。
常にブレーキを踏みながらアクセルをふかしているような「高静圧運転」。そりゃあ、燃費も悪いし、疲れるはずよ。
もう、そんな非効率な運転はやめる。これからはダンパー全開。言いたいことは言うし、出したい音は出す。その代わり、腹(=覚悟)を決めて、風量(=情熱)だけでコントロールしていく。
ただし、この新運転モード、風速(声量)が凄まじく出るので、近所迷惑にならないところに城を構える必要がある。
みなさまもご自分の体という「一生モノの設備」、一度メンテナンスしてみてはいかがだろうか。合言葉は「ダンパー全開」で。