【私が建物の”調律師”になるまで②】幽霊テナントと、思考停止の夜。私はただの「操り人形」だった。
【私が建物の”調律師”になるまで①】設計図の「その後」を知りたくて飛び込んだ場所は、めまいがするほどの「歪んだ空間」だった。
今朝、玄関前を塞ぐ60cmの雪を無心でかきながら、ふと、子供時代を過ごした新潟県長岡市の光景がフラッシュバックした。
「56豪雪」を経験した街。そこで私は、蓑(みの)と笠をまとい、雪の中を自転車で漕いでいく老人を目撃した。
金沢の旧市街育ちの母は、そのあまりの前時代的な姿に「とんでもないところに来てしまった」と絶句していたけれど、半世紀が過ぎ、設備屋としての視点を持つに至った今の私は、あのじいさんを全く違う目で見ている。
あれは「遅れた装備」などではない。ホームセンターもゴアテックスもない時代に、あの過酷な環境に最適化させた「究極の対候装備」だったのだ。
湿った重い雪の中で動けば、完全防水のゴム合羽では体温で蒸れて、内側から濡れてしまう(結露だ)。しかし、蓑は違う。藁の油分で水を弾きつつ、繊維の隙間から湿気を逃がす。あれは「天然の透湿防水システム」であり、あの場所で生き抜くための、最も合理的な「適正技術」だった。昔の人はすごい。
時代は変わり、場所は変わり、私の目の前にある課題は雪から「音」に変わった。ギターの先生から出された課題。
「マルチエフェクターのブラックボックスなノイズ除去に頼らず、自分の指でノイズを制しろ」
正論だ。そこで私がとったアプローチは、あの長岡のじいさんと全く同じだった。
「手元にある汎用品で、最良のものを作る」
これが、私の出した答えだ。電源には、どこにでもある汎用の「モバイルバッテリー」を採用した。 コンセントからの交流電源を物理的に遮断し、純粋な直流(DC)のみを供給する。理論上、これ以上のノイズレス電源はない。モバイルバッテリーは、私にとっての「現代の藁(わら)」だ。
そして、固定にはマジックテープなど使わない。ホームセンターで調達した建築用の「L字金具」とビスで、物理的にロックした。両面テープでエフェクターがベトベトになるなんて許せない。
環境に合わせて、知恵を絞り、ありあわせの道具でサバイブする。それが雪国のエンジニアリング魂であり、私の流儀なのだ。