建築設備エネルギーラボ合同会社

私が「ひとり設備ショウ」と名乗る理由 〜設備業界の田島貴男を目指して〜

私が敬愛するOriginal Love・田島貴男の「ひとりソウルショウ」をご存知だろうか。

たった一人でステージに立ち、ギターをかき鳴らし、歌い、足でリズムを刻み、ルーパーを駆使して音を重ねていく。そこにはバンドという形態を超えた、個人の魂(ソウル)が炸裂する圧倒的なグルーヴがある。

私は今、建築設備業界でこれをやっている。名付けて「ひとり設備ショウ」

なぜそんな大層な名前をつけたのか。それは、私の歩んできたキャリア——「設備設計」から「プロパティマネジメント」、そして「エネルギーマネジメント」へ——という道のりが、既存の業界の枠組みでは説明しきれないからだ。

私の仕事を伝えるために、音楽で翻訳してみる。

建築 ≒ 音楽業界

建築業界は、かつての音楽業界のように工程が完全に分業されている。「作曲家」は「ライブ」に関与しないし、「レーベル」は「譜面」を読まない。それが当たり前の世界だ。

しかし、私はその分断された工程を一人で横断してきた。

  1. 設備設計 = 【作詞・作曲・アレンジ】 私が最初に就いた仕事。空調や給排水の図面を描くのは、まさに「スコア(譜面)」を書く作業だ。 配管というメロディラインをどう通すか、理論と構造ですべてを構築する「生みの苦しみ」を知るフェーズ。
  2. 施工 = 【レコーディング】 (私は実務経験はないが)施工者が譜面(図面)通りに、物質として建物を定着させる作業。
  3. プロパティマネジメント(PM) = 【レーベル・事務所運営】 次に私が経験したのはビジネスサイド。 どんなに名曲(高スペックな設備)でも、維持費が高すぎたり使い勝手が悪ければ、ファン(テナント)は離れていく。 ここで私は、「売れる曲」「長く愛される曲」としての建物のあり方を学んだ。
  4. エネルギーマネジメント = 【ライブ音源の解析と、次回の演出】 ここが今、私が一番力を入れている、そして最も奥が深い領域だ。

理想を言えば、エネルギーマネジメントとはリアルタイムのライブ・パフォーマンスであるべきだ。「今、暑いから冷房を強めよう」この場面におけるエネルギーの最適解を即興で対応できれば最高だ。しかし、現状はまだそこまで追いついていない。

では、私が何をしているか。 それは、「過去のライブ音源(データ)の徹底的な解析」だ。

規模の大きな建物では、1時間ごとの運転データという「ログ」が残る場合がある。 私は過去(1年から数年分)の膨大なデータを引っ張り出し、まるでライブの録音を聴き返すようにチェックする。

「去年の夏、この時間帯にお客さん(負荷)が増えて、空調が悲鳴を上げているな(音が割れているな)」「この季節、中間期なのに無駄に暖房が入ってリズムが崩れているな」

過ぎ去ったデータの中に、建物の癖や失敗、そしてポテンシャルが全て詰まっている。それを解析し、「じゃあ、次の夏はこう設定を変えよう」「明日の朝は、こういう立ち上げ方をしよう」 と、次のステージ(未来の運用)のセットリストを組み直す提案をするのだ。

即興演奏ではない。しかし、過去の膨大なライブデータを読み解き、次回の公演で最高のパフォーマンスを出させる。それは、熟練のエンジニアにしかできない仕事だと自負している。

全部やるから、最高の音が鳴る

多くの技術者は、このどれか一つしかやらない。「作曲家(設計)」は「ライブ(現場)」を知らないから、演奏不可能な譜面を書きがちだ。「レーベル(PM)」は現場の機微を知らないから、数字だけで無理な要求をしたりする。

でも、田島貴男を見てほしい。彼は自分で曲を書き、自分で歌い、録音し、レーベルを持ち、自分でリズムを作りその場の空気でグルーヴを変える。だからこそ、あの唯一無二の熱狂が生まれる。

私も、建築という巨大なハコを使って、それをやりたいのだ。

ライブ(運用)を知っているから、本当に良い音が鳴る譜面(設計)が書ける。

ビジネス(PM)を知っているから、オーナーが喜ぶセットリスト(省エネ提案)が組める。

「弾けない音」は描きたくない

実は私、かつて通信制の音大でポピュラー作曲を学んでいたことがある。しかし、途中で辞めてしまった。理由は、アレンジの課題が出た時、ふと気づいてしまったからだ。「ギターを弾けない人間が、想像だけでギターのパートを書くなんて、嘘じゃないか?」と。

DTMで「ギターっぽい音」を入力することはできる。でも、それは本物じゃない。私はその違和感に耐えられず、大学を辞めてエレキギターを習い始めた。「机上の理論」よりも、「指先のリアル」を選んだのだ。

私が「設備設計」という譜面描きの世界から、「エネルギーマネジメント」という運用の世界へ足を踏み入れたのも、全く同じ理由だ。

図面の上では完璧な空調システムも、実際の現場ではどう動いているのか? 設計者が想定していなかった使い方の変化に、建物はどう悲鳴を上げているのか?

それを知らずに図面を引き続けることは、弾けないギターの譜面を書くのと同じだと思った。だから私は、過去の膨大なデータを解析し、建物の「今の音」を聴く仕事を選んだ。

「弾けない音は書きたくない」「運用を知らないまま、設計したくない」

音楽も仕事も、私の行動原理は常にそこにある。

分業が当たり前の建築の世界で、設備の多くのパートを一人で演奏する私は、かなりの希少種だと思う。 理解者は少ないかもしれない。孤独を感じることもある。

それでも私は、誰にも見えない配管という弦を弾き、建物という巨大な楽器を一人で鳴らし続ける。それが私の「ひとり設備ショウ」だ。

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