【稼働ログ】自機ハードウェアの仕様書と要件定義の再構築〜私が「プレイヤー」を降りた理由〜
重低音と熱暴走の空間:おっさんの園の崩壊、AIの完璧な図面、そして「ハコ」すら不要な究極のDTM世界への妄想
私には、4歳からヤマハのメソッドで叩き込まれた「絶対音感」という強力な基本ソフト(OS)がインストールされている。設備制御で言えば、外部の基準に頼らず、自身の内部センサーだけで正確に「ドレミ」を割り出す、超高精度の「絶対値センサー」だ。長年、これは私の音楽的アイデンティティであり、誇り高きスペックだった。
しかし、50代でエレキギターを本格稼働させた今、この「Yamaha OS 1.0」が、私のシステムに深刻な処理落ち(バグ)を引き起こしていることに気づいた。
どんな高級な計器でも、50年近くフル稼働していれば必ず「経年劣化」を起こす。ある日私は、自分の耳が捉える音と、実際の音が「半音ズレて聴こえる」という致命的なエラーを検知した。設備管理の世界でいう「センサードリフト(計器の狂い)」である。
本当は「ミ」なのに、劣化したセンサーが「ファ」と誤検知してしまう。その狂った計器のまま、チョーキングやビブラートといったギター特有の「微細な波形」を処理しようとしたからたまらない。
私の脳は「今の音はミとファの間で…いや、基準値がズレていて…エラー!」と、常に無駄な補正計算を強いられ、CPUは熱暴走を起こした。
狂ったセンサーはどうするか? 修理(若返り)は物理的に不可能だ。
そこで私は、エネマネの現場でもよく使う強硬手段に出た。絶対的な基準値で測るのをやめ、「前の音からどれくらい離れているか」という「相対音感(差分・相対座標)」での演算制御へシステムを根本からリプレイスしたのだ。起点がズレていようが、そこからの「距離」さえ正確なら、システムは回る。
そして、この「ドレミの絶対座標」への執着を手放したことが、次なる巨大なアップデートの呼び水となった。
ギターのマスターピースアルバムを聴いていた。ジェフ・ベックの『Blow by Blow』。その中の1曲、『Air Blower』。
ベックのギターは、フレットという物理的な「マス目」を完全に無視している。アームを駆使し、まるで空気を切り裂くような連続的な波形で空間を支配する。
その圧倒的なサウンドを無限ループで浴びていた時、私は無意識に、ベックのフレーズを「ミファソ」というデジタルな記号ではなく、「タラララァー」とニュアンスのまま口ずさんでいた。ドレミへの変換プロセス(クオンタイズ)を放棄し、自分の声帯から直接「アナログ波形」を出力したのだ。
その瞬間だった。
脳内で40年間、どんな音を聴いても勝手に起動し、私をマス目に縛り付けていた「鍵盤」が、スッと消え去った。
『Air Blower』
エアーブロワー(送風機)とは、ゴミやチリを圧倒的な風圧で吹き飛ばすための道具だ。ベックの放つ規格外の風圧(連続波形)が、文字通り強力なエアーブロワーとなって、私の脳内配管にこびりついていた「ドレミのマス目」という旧式OSの残骸を一瞬にして吹き飛ばしてしまったのだ。
脳内鍵盤がタスクキルされたことで、膨大なメインメモリが解放された。その結果、音程ではなく、ギターのピッキングの強弱、アンプの揺らぎといった純粋な「波形(音色)」そのものが、直接私のシステムに流れ込んでくるようになった。
デジタル制御の「ON/OFF(ドレミ)」から、滑らかに周波数を変える「インバータ制御(波形)」へのシステム移行である。長年私を守ってくれたYamaha OS、ありがとう、任務完了(Mission Complete)だ。
耳の呪縛は解け、配管は完全にクリアになった。次はこの高解像度な波形データをルックアヘッド(先読み)し、私の指先という末端アクチュエーターへ流し込むフェーズだ。私の本当の実験は、ここから始まる。