【私が建物の”調律師”になるまで②】幽霊テナントと、思考停止の夜。私はただの「操り人形」だった。
【私が建物の”調律師”になるまで①】設計図の「その後」を知りたくて飛び込んだ場所は、めまいがするほどの「歪んだ空間」だった。
かっこいい成功事例よりも、こういう冷や汗をかいた話の方が、これから技術を磨く若手の皆さんには役に立つはずだから。
舞台は、敷地が狭い「ペンシルビル」の飲食店。
その建物は、狭小地に建つ多層階の飲食店ビル。 竣工してしばらく経った頃、「1階の客席の空調が全然効かない」というクレームが発生した。
実はこの話、最初は私の耳には入ってこなかった。 おそらく周囲の配慮(あるいは諦め)で、「設備設計に責任を取らせるわけにもいかないし、対応しておこう」と思われていたのだろう。
しかし、これは声を大にして言いたいのだが、「設計者は、自分の設計に対するクレーム(不具合)を教えてもらわないと、一生同じミスを繰り返す」。 痛い思いをして初めて、「なぜ計算通りに行かなかったのか?」を必死で振り返るから。
後からその事実を知った私は、原因を考えた。もちろん、熱負荷計算はちゃんとやった。 しかし、現場で起きていたのは、想定を超える事象。
計算上、風除室(二重扉)があれば外気の侵入は防げることになっている。しかし、繁盛店であればあるほど、お客様の出入りでドアは開きっぱなしになる。 狭小ビルゆえに、ドアが開けばダイレクトに外気が客席へ雪崩れ込む。
厨房の給気(OA)が当時どうなっていたか確かめようもないが、もしかしたらは給気ファンが回っていなかったかもしれない。
厨房を「負圧」にするのはセオリー。だけど、足りない空気はどこから持ってくる? 答えは「客席」。 そして客席はどこから空気を持ってくる? 答えは「エントランスのドア(外気)」だ。
つまり、「エントランスのドアが開く → 夏の熱風(冬の寒風)が猛烈な勢いで吸い込まれる → 客席を通過 → 厨房へ排気される」という、空調機が太刀打ちできない空気の流れができていたのだと思う。
この失敗以来、私は飲食店の1階、特に厨房と客席が近い店舗の空調設計には、臆病なほど慎重になった。
外気負荷の見積もり: ドアの開閉頻度を甘く見ない。冬は煙突効果も影響大。
室圧バランス: 厨房の負圧分を客席負荷としても考慮する。
教科書通りの計算をしたからOK、ではない。「建物が実際に使われている状態」を想像できていなかった、私の完敗。
若手の皆さん。もし自分の案件で「空調が効かない」という噂を聞いたら、耳を塞ぐのではなく、真っ先に現場へ飛んでいってほしい。 その「痛み」こそが、あなたを一流の技術者に育ててくれるから。