建築設備エネルギーラボ合同会社

建物は生きている、図面は死んでいる。~数千万円の設備を「撤去」する決断~

竣工図は「遺影」である

多くの人は、建物が完成した時の図面(竣工図)を「正解」だと思っている。そこに描かれた線、そこに配置された機器。それが未来永劫、その建物の「あるべき姿」だと信じている。

だが、私はそうは思わない。竣工図なんてものは、建物が生まれた瞬間の「記念写真」に過ぎない。あるいは、過去の時間を切り取った「遺影」だ。

建物は生きている。10年、20年と時が経つと、中に入るテナントも変われば、利用者の数も変わる。社会情勢が変わり、エネルギー価格も変わる。人間が成長(あるいは老化)すれば着る服のサイズが変わるように、建物だって「必要な装備」は刻一刻と変化しているのだ。

それなのに、なぜ多くの改修現場では、思考停止して「昔と同じサイズの服(設備)」を新品に着替えさせようとするのか。

亡霊(ファントム)に燃料を食わせるな

以前、ある大規模施設の改修案件に関わった時のことだ。機械室の主役として鎮座していたのは、巨大な「コジェネレーションシステム(CGS)」だった。

ガスエンジンで発電し、その際に発生する排熱(お湯)を給湯や空調に利用する。エネルギーを骨までしゃぶり尽くす、理論上は「高効率」なシステムだ。当時、その機械は唸りを上げて稼働していた。発電機は回っている。

しかし、私は違和感を覚えた。

「この熱(お湯)、どこに行ってるんだ?」

図面を見れば、回収された熱は「大浴場」へ送られる設計になっていた。だが、現場の運用実態を調べて愕然とした。かつて売りだった大浴場は、客層の変化により稼働率が激減していたのだ。ほとんど使われていない。

つまり、この巨大なエンジンは、「もういない客(亡霊)」のために湯を沸かし続けていたのだ。行き場のない熱は、ラジエーターから虚しく大気中に捨てられていた。省エネどころの話ではない。ただの「燃料のたれ流し」だ。

「更新」ではなく「撤去」という選択

図面屋や、リスク回避しか頭にない担当者なら、こう言うだろう。

「既存図面にコジェネがありますね。老朽化しているので、最新の高効率型に更新しましょう。」

彼らはエネルギーデータを読めない。「無くても大丈夫」と証明する責任を負うくらいなら、オーナーの金で「無難な更新」を選ぶ。それは楽な仕事だ。設計料も稼げるし、前例踏襲だから責任も問われない。

だが、私はオーナーに告げた。

「このコジェネは捨てましょう。」

数千万円かけて新しい機械を入れるのではない。システムそのものを撤去し、今の身の丈に合った小さなボイラーと、系統電力への切り替えを提案する。オーナーは驚いたが、ランニングコストの試算を見て沈黙し、そして同意した。

設計に「正解」はない

誤解しないでほしいが、私は新築当時の設計者を批判しているわけではない。20年前、その施設は大浴場がフル稼働する前提で計画された。その時点では、コジェネ導入は紛れもない「正解」だったのだ。

罪なのは、設計者ではない。「建物は変わった」という事実を無視して、過去の正解に固執し続けることだ。

設計に、恒久的な正解も不正解もない。あるのは「その時点での最適解」だけ。使い方が変われば、最適解も変わる。当たり前のことだ。

変化を恐れるな

設備設計とは、新しい機械を選定することだけではない。時には「止める」「減らす」「捨てる」勇気を持つことも、立派なエンジニアリングだ。

あなたの建物も、20年前の「若くて太っていた頃の服」を、無理やり着続けていないだろうか?

図面(過去)を見るな。現場(今)を見ろ。そこにしか、本当の省エネの答えはない。

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