【私が建物の”調律師”になるまで②】幽霊テナントと、思考停止の夜。私はただの「操り人形」だった。
【私が建物の”調律師”になるまで①】設計図の「その後」を知りたくて飛び込んだ場所は、めまいがするほどの「歪んだ空間」だった。
私の耳は、昔から「音」を「音楽」で聴くのだが、 歩いている時の自分の足音が、ずっと気になっていた。
左足は低く重厚な音なのに、右足だけ少し乾いた、軽い音がする。 タッ、コツッ、タッ、コツッ。 まるで左右でピッチの合っていないドラムを聞かされているようで、どうにも気持ちが悪い。
私の足は、デカい。 身長が172cmあるので、構造力学的にも基礎(足)が大きくなるのは必然なのだが、日本の「カワイイ靴」の市場において、26.5cm(EU40)というサイズは存在しないに等しい。
だから私、靴はイタリアの通販サイト「YOOX(ユークス)」で調達することに決めている。ここには私の足を待ってくれている「カッコよくて、デカい靴」が山ほどあるからだ。 送料がいわゆる航空運賃並みにかかるので、お金を貯めて、セールの時期にまとめ買いをする。大きな箱が届き、その中から相棒たちを取り出す瞬間は、何歳になっても心が躍る。
そんな愛すべきイタリア製の頑丈な靴を履いていても、右足の「異音」は消えなかった。靴のせいではない。私の中身、つまり「身体のOS」の問題だ。
そこで私が調整したのは、足ではなく「舌」だった。
解剖学には「ディープ・フロント・ライン」という、舌の裏から足の指先までを繋ぐ、身体の深層ラインがあるらしい。 私は、体の力みのラスボスである舌を、上あごにピタッと吸着させて歩いてみた。
するとどうだ。頭の位置が定まり、背骨が伸び、その連動が股関節を経て、右足にまで届く。今までサボっていた右足の土踏まずが「バネ」として機能し始めたのがわかった。
その瞬間、足音が変わった。タッ、タッ、タッ、タッ。左右の音が、きれいに揃った。ユニゾンだ。
さらに驚いたことがある。 バネが効きだしたことで、縮こまっていた右足が地面をつかむように広がり、少しブカブカしていたサイズ40の靴に、ピタリと吸い付くようになったのだ。これまで中敷きで誤魔化していた隙間が、自分の足の機能回復によって埋まった瞬間だった。
ビルも身体も同じ。ノイズ(異音)がする場所には、必ずエネルギーのロスがある。そしてその原因は、意外と遠い場所(今回は舌)にあったりする。
お気に入りの靴を、最高の響きで鳴らして歩く。これもまた、私なりのエネルギーマネジメントだ。